自民党の派閥「志帥(しすい)会」が4月に「解散式」を開いた。派閥裏金問題を背景に逆風にさらされた志帥会は、かつて党内の主流派に位置付けられていた。その中心に立っていたのが、志帥会を率いた二階俊博元幹事長(86)だ。憲政史上最長の政権を築いた安倍晋三元首相とともに、自民党の「1強」として君臨。政界で存在感を放ち続けた。そんな二階氏が絶頂期の頃、新潟県佐渡市の漁師たちの目の前で“政治的迫力”を見せた、ある一幕があった。「俺が言っているんだからやれ」―。その振る舞いには、二階氏が政治の師と仰ぐ田中角栄元首相の“面影”が漂っていた。 あいさつもなく、通話は始まった。「ちょっと俺から言ってきたということで、関係者を招集して対応してくれないかね」。ドスの利いた声だった。電話を切ると二階氏は開口一番、「やります」と告げた。「ありがとうございます!」。感謝の言葉が飛び交った。 2019年8月初旬、東京・永田町の自民党本部周辺に響くセミの鳴き声は、二階氏がいる党本部4階の幹事長室にまで届いていた。「本当に困っているんです」。新潟県選出の衆議院議員の案内で幹事長室を訪れたのは、 佐渡市など日本海側で操業しているイカ釣り漁師の一行。クロマグロの漁獲規制に絡み、イカ釣り漁に悪影響が出ている状況を訴えた。 クロマグロの個体数減少は国際的な問題で、国が漁獲枠を設けて資源管理をしている。その結果、日本海を泳ぐマグロの量は増え、マグロにイカが捕食されたり、漁具を壊されたりとイカ釣り漁への実害が次第に顕在化。水揚げ量が落ち込んでいた。「自然相手のことなので、多少のことは目をつむります。でもマグロに関しては被害が大きい。マグロを守りたい水産庁の立場もあるだろうけれど、非常に切なくて何とかなりませんかというお話をしたかった」。自分たちのなりわいを守るため、クロマグロの漁獲枠拡大を懇願した。 ◆陳情にすぐさま対応、水産庁トップに直電 ソファに腰掛け、訴えに耳を傾けていた二階氏はスタッフに幹事長室から電話をかけさせた。すぐに声が掛かった。「二階幹事長に代わります。水産庁長官です」 この1時間ほど前、同じ内容の陳情を受けた吉川貴盛農相(当時)の回答は「検討する」「精査して調べる」といった形式的なものだった。一方、二階氏は陳情を受けた数分後に一行の前で、水産庁トップと直接交渉を始めた。 「マグロとイカの関係で、水産庁もいろいろ苦労しているんだろうけれど、対応できないかって今、言われてんだよ。マグロにイカが食べられちゃうってんだよ。これに対して、この被害をね、何とかならないかっつうんだけど、これ我々が頭ひねったって、水産庁に聞かな、しょうがないからね。これ、そっちでも課題になってんだろ?」 「いっぺん検討しよう。党も協力するからね。こっちに来てる人たちの名刺もらって、そっち届けるから、その方々とね、やってくださいよ。地元としてはこれ重要な問題だよね。一つ真剣に考えてあげてください。また報告してください。はい、以上です。どうも」 有無を言わせない迫力でたたみかけた。通話を終えると二階氏は「ちょっと君(スタッフ)、みんなの名刺もらってよ。水産庁長官に届けるから。あっちも逃げられないようにな」とにやり。漁師たちの笑い声が響いた。 ◆「自民党が政治をやってんだから」 続けざまに二階氏は、水産業分野の政策を話し合う党水産部会の開催を指示した。 「自民党が政治をやってんだから。あの党もよかろう、この党もよかろうって、きょろきょろする人も世の中にはおるけれど、ほとんどの漁民の皆さんは自民党を応援してくれてんだよ。だから、それに対してやっぱり党は応えなきゃ」 「我々はよその国から選ばれてんじゃないんだから。自国の漁民の人を守るために、党はどんなことをやったって、やりすぎはない。やり足りないから今こんなんなってんだから」 熱弁を振るった二階氏は「早速やらせる。いつやれるか?」とスタッフに確認。「今月(8月)中に一応段取りを組むことで」と濁されると、「今月中っていつだ。あほなこと言ってないですぐやれって。俺が言っていると。今週中にもやれって」とすごんだ。これにはスタッフも「今週中…」と言葉を失い、最後は「分かりました」と答えるしかなかった。 ◆即応は「昔から変わらない得意技」 二階氏は国会議員秘書、和歌山県議会議員を経て、1983年の衆議院選挙で初当選。田中角栄氏が率いた自民党「田中派」に所属した。 「受けた陳情や要請に即応する。これは二階さんの得意技で、昔から変わらないです」。田中派などを取材し、二階氏と約40年の付き合いがある政治ジャーナリストの後藤謙次さん(75)が、その行動原理を説明する。「二階さんは長く国会議員秘書をやっていて、陳情を一挙に引き受けていた。即断即決は、頼んできた相手に強いインパクトを与えると経験的に分かっていて、これは田中角栄さんもよくやっておられた。二階さんの場合、生まれ持った面倒見の良さが、田中角栄さんと出会ったことで増強された感じがします。人に親切にするとか、困りごとの相談に乗るとか、それは田中派の“DNA”のようなものだと思いますね」 1993年に自民党を離党した二階氏は他党で活動した後、2003年に復党。「小泉劇場」と呼ばれた05年衆院選では、総務局長として選挙の実務を担当した。小泉純一郎首相(当時)が掲げる郵政民営化関連法案に抵抗する自民党議員に向けた“刺客”の人選を進め、自民党圧勝に貢献。「これで二階さんは大きく飛躍を遂げた」(後藤さん)。その後、経済産業相や自民党の国会対策委員長、総務会長と要職を歴任。16年8月、第3次安倍再改造内閣発足に併せた党役員人事で、当時史上最高齢の77歳5カ月で幹事長に就任した。 現首相の石破茂氏や安倍氏、田中氏ら政界の「超大物」が務めた自民党幹事長というポスト。選挙の公認権や資金の配分など、党内を掌握する絶大な権力を誇る。二階氏は20年9月に通算在職日数で田中氏を抜き歴代トップになると、安倍氏退陣後の菅義偉政権でも幹事長にとどまり、記録を約5年2カ月まで更新した。 ◆「頼りになる自民党」をアピール、その狙いは… 二階氏がイカ釣り漁師一行と面会した19年8月初旬時点で在職日数は千日を超えており、「1強」の地位は不動のものとなっていた。陳情を受け、二階氏は強い口調で関係各所に迫ったが、その後の展開はどうだったか。 水産庁資源管理推進室の担当者は「クロマグロの漁獲枠については、水産政策審議会などで議論していただいており、その内容も公表している。(国会議員の)プレッシャーがあったから、こうしましたということはあり得ない」と政治力の介入を否定。二階氏が「すぐやれ」と念を押した自民党水産部会に関して、党本部政務調査会は「2019年8月に開かれた記録は確認できない」とした。 結果として、幹事長室からかけた「圧力」は空回りのように映るが、後藤氏が二階氏の思惑を読み解く。「田中角栄直伝のサービス精神が洗練され、即応という、ある種の政治的技術になったように思います。二階さんとしては『俺は(関係者に)頼んだからな』というところを『その場で見てもらう』ことが大切だった」。一連の振る舞いは「頼りになる自民党」をアピールし、好感を抱かせ、選挙の得票につなげるパフォーマンス。「私はそう思いますね」 ◆満足そうに「選挙は頼みますよ」 その評価を鮮明にしたシーンは、陳情の最後に訪れる。 自分たちの思いに応えてくれた―。二階氏のパフォーマンスに漁師一行が心を引きつけられていたのは明らかだった。「幹事長の力強い言葉を聞いて安心しました」。明るい雰囲気に包まれ、二階氏は満足そうだった。 陳情の2週間ほど前、第25回参議院選挙が行われていた。自民党は新潟選挙区で敗れるなど改選前から議席を減らし、単独過半数を失う結果となった。タイミングを見計らい、二階氏は言った。 「その代わり言わずもがなだけれど、選挙は頼みますよ」
コメント 10件
これ、賛否両論はあるかもしれないけれど、ビジネスで言えばすごく有能。直電する、その場で返事させる、取り次ぐ、くぎを刺す。 部下にやらせるのではなくて自分でやる。 これをされると、頼まれた方はやらざるおえないのでたまったものではない。 しかし頼む側からすると、これもほど頼もしいものは無い。 今だとメールで頼むとかになるけど、これだと相手は逃げることができる。 ※メール見ていませんとか、そんなに重要とは思いませんでしたと言って、逃げることができる 実際1日に山のように届くメールは、タイトルだけ見て取捨選択することが多いので、直電は、アポなし訪問の次に効く。 批判はあるが、ビジネスのやり方なら素晴らしい。
煽り記事ではあるが、自民党はこんなものだろう。長年の与党第一党にどっぷり使って、自民党が何をやろうが所詮国民には自民党以外の選択肢はないと思い込んでいる。そのぬるま湯期間で、裏で高齢議員が実権を握る構造が定着してしまった。二階氏を始め一番の原因達が現役の間にぎゃふんと言わせてやれないのは悔しいが、その二世議員達に国民の怒りを知らしめることは出来る。まずはとにかく自民党を第一党から降ろすことが、全てのスタートだと思う。
税金という原資を扱う以上は公平性や透明性を担保しなければならないのが当たり前で、そのためにある程度手続きを踏んでしか物事が進まないというのは仕方ないことと思う。 それをこの人が言ってるから、とか、この人に言われるてるから、とかやってるから忖度や腐敗が生まれてこの国の現在の惨状があるのがよく分かりますね。 この記事を例に取ればこの地方のイカ釣り漁師さんと言うのは全納税者の0,0…何%ぐらいでしょうか?どちらにしろ極々一部ですよね?その方たちには確かにありがたい話でしょう、が、そのために後回しにされたり、他と調整を強いられたり皺寄せを喰う方たちもその何十倍も何百倍も出るということですよね。 いい話みたいに仕上げてますけど、これはまさに、利益供与や利権優先、特定業界、団体との癒着など公正公平からもっとも遠い自民党政治の象徴のようなものであると自分は改めて思いました。
現在の森山幹事長と同じだね。 【進次郎起用の背景】 江藤大臣の炎上辞任を画策、後任を進次郎に。進次郎が速攻で米価格を下げる演出で、国民へのイメージ回復。 参院選での自民党敗北も想定内、むしろ石破は引責辞任で石破降ろし完了。そのあとは森山幹事長の思惑通り、立憲もしくは国民民主あたりと大連立。 自民党は残り続ける。 二階氏に、限らず自民党の古老たちは老獪です。
陳情団の目の前で担当部署の官僚に直電は田中角栄氏の得意技だったけど、角栄さんの場合は官僚に圧力をかけるだけではなく、その分のフォローはキチンとやっていた。キャリアだけでなくノンキャリの名前や経歴まで覚えていたそうだからね。だからこそ官僚の間でも人気があった。 二階さんはどうだったのかな?
俺が言ってんだから、すぐやれって! ⇒政治っつーのは大体こんなもんですよ 消費税減税、暫定税率廃止、社会保険料減免、103万の壁とかさ 一言で決まるんだよ できない、やれないとかうるせーって 財源財源って、それを考えるのがお前らの仕事だろ!って あと二階には税金の50億を返してもらわないと
昔から私利党利だったのが露呈したな。そりゃ自民党不要論も出るワケだよ。現に過去30年から未だに国民から摂取し続け苦しめてんだから。 とにかく、参院選では自民党候補者に投票してはダメ!政治は個人ではなく組織。自民党に議席を与えてはいけない!
直電しても その後の報告がどうなっているか? スルーされている案件もある 直電したあとのフォローが 必要であり それをやったのかな? やってたら自民党ももっと強かったことでしょう パフォーマンスのみだったのでは? 秘書も 長男次男三男でしたから 自民党を弱くした張本人に思えますが・・・
政策に投票するのが選挙だと思ってる都会の人にはわからないだろうけど、地方の人が政治家に求めているのはこれなんだよね
田中なんて、今の金権政治を作り上げた張本人。そして、そのパシリだった二階が税金原資の政治活動費50億円という使途不明金を作った。自民党が金、利権、既得権益、私利私欲といわれる所以。 早く自民党には解体してもらいたい。
引用: https://news.yahoo.co.jp/articles/da3ff4df682b026a7397ee5e44851539941f4d5b
コメント